ソフトバンクグループの孫 正義氏(@masason)と ITジャーナリストの佐々木 俊尚氏(@sasakitoshinao)の両者による 『光の道』 対談だ。
※この投稿は対談が終わった直後から書き出したものなので、誰が何を言ったなどに関しては細かい誤りがある可能性もありますが、悪しからず。 松村 太郎氏 @taromatsumura のテキストログに次ぐ速さで投稿した『光の道』 対談のまとめです。
事の発端は原口一博総務大臣が提案した「光の道」という構想から始まった。
ソフトバンクは自身が薦めたこの政府案を当然「支持する」と主張した一方、佐々木氏は「ソフトバンクの「光の道」論に全面反論する」という記事を CNET Japanに掲載したのだ。
詳しく知りたい方はまず佐々木氏の記事を読んでほしい。
【記事】 http://japan.cnet.com/blog/sasaki/2010/04/29/entry_27039509/
要はこの記事を読んだ孫氏が佐々木氏にツイッターで「とことん対談しましょう」とツイートしたのだ。
・こちらも詳しく知りたい方は「Togetter」にやり取りがまとまっているので参考にしてほしい。
【関連ツイートまとめ】 http://togetter.com/li/17578
では興奮が冷めないうちに、今夜の対談を自分なりにまとめてゆきたい。
問題の政府案をざっくり説明すると:「2015年頃をメドにブロードバンド利用率100%を達成しよう」という案になる。
記事に書かれていたこれに対する反論を佐々木氏がプレゼン形式で述べるのだが、まず印象に残ったのが、孫氏がすぐに話に割り込んでくる事だ。しかも半ば強引に。
ただ、ディベイトでは隙やタイミングがあれば自分の意見をすぐに言わないとならないと私は思っている。今回のようなセルフジャッジルールでは孫さんのやり方は間違っちゃいないし、そもそもルール等作る意味が無い。
次に孫氏のプレゼンになるのだが、5時間分の討論を全て説明するとキリがないので、簡潔にさせてもらう。
孫氏は:「ITを簡単に利用できる環境を作れば人々はITを使いこなせるようになる」という "まず実行" という精神を持っているように感じた。
対する佐々木氏は:「ITを使いこなせる人を十分に育ててから」と主張するいわゆる "しっかりと計画派" スタイルだ。
正解は無いという人もいるかもしれないが、「パソコンを使える人々だけにパソコンを渡す」と言っても、"パソコンを使える人々の選定に金と時間がかかる"ならば同じぐらいの金をかけてでも短時間で大衆にパソコンを与えるという孫氏の考えが自分としては好きだ。
確かにパソコンを使わない人もいるかもしれないが、どうせコストがかかるならば、より多くの人々にパソコンを使える環境を提供したほうが良いと思う。手にして初めて使う気になる人もいるかもしれない。
次に孫氏が「光の道」実現のためにどういったコストがかかるのかという点と、その意義についてプレゼンを続ける。
要はクラウド時代にしっかりとついていかないと、携帯電話と同じように日本独自の進化を遂げる「ガラパゴス化」状態に再び陥ってしまう恐れがあるため、今から世界標準である「クラウド」を利用して国のITシステムを整備する必要があるという主張だ。
しかもこの整備をするにあたり、日本が垂れ流しにしている無駄な資金の一掃にも繋がるため、現状よりはコストが大幅に削減される。
※ここら辺の詳しい数字(どんなものにいくら無駄遣いされていて、それを何と置き換えていくら削減されるのか等)は本日のプレゼン資料がソフトバンクから公開されているので確認してほしい。
【資料】http://www.softbank.co.jp/ja/irinfo/shared/data/announce/20100513_02.pdf
自分が思うに、日本の強みは他人から学ぶ「器用さ」と「生真面目さ」で付加価値を「創出」すること。逆に弱みは新しい「型」や「仕組み」を作ることは苦手という点。クラウド時代でリーダーシップが欲しいならグローバルで通用する基準が必要であるため、日本人は苦手な「新しい仕組みを作る」という壁を乗り越えなくてはならない。
ではブロードバンド利用率が100%になったらどうなるのか?
孫氏はまず二つの柱が重要であると語った。
「教育」と「医療」という二本柱だ。
教育では「電子教科書」の導入が重要になってくる。
電子教科書にすると生徒の好奇心を刺激し、やる気をアップさせる事も可能。例えば宇宙や生命の神秘を映像で配信する事や数学のグラフや物理法則を3D、バーチャルリアリティーで学習するなど多くのアイディアが考えられる。
リッチコンテンツにすることによって、「知る感動」が生まれると孫氏は述べる。
人間は「感動する内容」、もしくは「自分が幸せになるための内容」については物凄く呑み込みが早くなる。例えば楽しくて好きな事はすぐ覚えるし、英語が話せれば給料が上がると分かれば学習スピードも格段に上がる筈だ。
今の日本教育には「外国人にはまったく通用しない発音での英語学習」など無駄な教育法が多くあるのが事実。
「歴史だって興味の無い日付や名前を丸暗記でしょ?学校では全然覚えられなかったけど、テレビの大河ドラマだと面白すぎてすぐに覚えちゃったよ」と孫氏も嬉しそうに語る。
このように、電子教科書を導入する事により、リッチコンテンツが活用できるようになり、生徒の興味を惹きつけ、学習スピードの向上が図れる可能性もある。
また、どの生徒が現在どの部分を見ていて、どこでどんなコメントを入力したかも分かるようにもなる。それらの情報を元に教師と生徒がコミュニケーションをとりやすくなる。「機械的な関係になってしまう」と佐々木氏が危惧していたが、そんな事は全くなく、以前にも増し、もっと密なコミュニケーションが生まれやすくなると私は思う。
また孫氏は教材に関しても「既に用意されている」と述べた。
例えばNHKの豊富な映像資産を活用する方法を彼は強く提案した。「国民から視聴料を徴収し作り上げた番組なんだから、もっと有効に使わないとね。川口にNHK映像保蔵庫があるらしいが僕も行ったこともないし、あなたも行ったことないでしょ?そんなもったいない使い方じゃなくて、義務教育の教材として使えばいいじゃない。いっぱいお金をかけて新たに国費で教材を作るなんてナンセンス。電子化して教材としてクラウド運用するのが良いよ」 と孫氏が分かりやすく説明した。
電子教科書となるデバイス(アップルのiPadのような物)は1台約2万円程度になると孫氏は述べた。これを全国の学校で導入するためには約3,600億円かかるが、例えば一つのダム建設予算である4,600億円と比べてみると非常に安く感じられる。ダムを一つ潰すだけで、ITを上手く使いこなせる事が出来て、世界で戦える子供が育つ。これは国の貴重な財産となる。
次に「医療」の話に移ろう。
医療では「電子カルテ」の全面導入を孫氏は薦めた。
今日の医療制度では、例えばいつもと違う病院にいくと、おこなった事のある同じ検査をして、同じ診察をする。
このように「医療の重複検査」で無駄に使われる時間と金が全体消費の3割ほどある。光の道が出来上がれば、そんな無駄が省かれるだけでなく、例えば田舎にいる独居老人のおじいさんが家の中から病院にいる時と変わらない診察を受ける事ができるなどの素晴らしいメリットもある。
例えば ①診察情報、 ②病歴、 ③電子公証、 ④今まで投与された薬の情報などの
データを全国の医師が共有できれば、効率が良く質の高い治療を安価で行う事ができる事が物分りの良い方には分かってもらえるはずだ。
「教育」の話しで、全学校に電子教科書を導入するように、全ての医者に電子カルテを配布することが必要になる。全員に、一人残らず、無償で配るというところが「ミソ」だと孫氏は強調した。
理想の「共通のプラットフォーム」は全員が同じものを持って、同じところに情報を集めること。いくら技術が進んでも、全員が合わせないとプラットフォームはできない。現在の日本では皆が自分の欲に走ってしまうし、強力なリーダーシップを発揮するプレーヤーが居ない。だからいまだにプラットフォームが出来上がってない。
電子カルテを導入した場合、医師だけではなく、必要な人が必要な情報にアクセスできるようにする事が重要になってくる。例えば ①医師や看護婦、②国民、③薬を作る製薬会社(薬の開発スピードや質アップに繋がる)などの関係者だ。
共通電子カルテの効果の一部を簡単に挙げると、医師による自宅訪問がなくなり、医療費が軽減する事。そして田舎の医師不足などの解消にも繋がるし、医師不足の緩和へも繋がる。田舎にいる医者も最新の情報をすぐに手に入れ活用する事が出来る。
政治家は「教育クラウド」と「医療クラウド」に力を入れるべきと主張する孫氏。
確かにこのような「万人が恩恵を受けることに国が力を入れるべき」であると自分も強く感じる。
二本の重要な柱について述べたが、電子カルテや電子教科書が全面導入され、活用されると、今まで以上にデータをアップロードする機会が増えてくる。そのためアップロード速度が必要になってくる。「ADSLでも十分早い」と佐々木氏は反論したが、ADSLはダウンロードはそこそこ早いが、アップロードは非常に遅いと孫氏がバッサリ。
つまりクラウドの特徴を最大限に生かすためには光の道が必要なのだ。
例えばせっかく高機能な家電製品を作っても、豆電球がやっと点灯するぐらいの電気しか供給されていなければ、新しい家電製品を開発しようとする人々がいなくなってしまう。そのような事態をクラウドの場合では避けなくてはならない。
長くなってしまったのでまとめに入るが、少なくとも孫氏は「たたき台」を出した。
もし彼のこの提案が批判されて潰れても(そんな事はないと思うが)国として何らかの進展はあるはずだ。
ただ孫氏が言っていたように「否定するならその理由をしっかり数値で出してお互いが納得できる答えを見つける必要がある。コストが削減されるし、インフラも良くなるし、便利になるし、世界とも戦えるようになるし、どんな理由で拒否をするのかが想像できないけどね」
孫氏の発言のハイライトの一つが以下の発言だろう:
「光の道を実現するのに国費を一円でも要求すると今後私が言ったら、国賊といわれてもかまわないし、頭も剃るっ!」
私はこれを率先して自らが大声で主張するのはスゴイと感じた。
対談の終わりにあたり、「透明性」、「オープンな場」でこういった議論をするのが大事であるというまとめに両者が入っていった。
孫氏は「志を語るのはどこだって、誰の前だって、堂々と出来る!」と主張した。
確かに堂々と人前でビジョンを語れない時点でおかしい。
数名が密室で議論をして、国が進むべき方向がいつの間にか決まる。
言われてみるとこの事実は非常に恐ろしい。
まさにこの両者が今日集まったのも国としての「進展」であり、大きな一歩だと思う。
これが本来あるべき、政策決定の最も重要なプロセスだ。
今回の件で言うと、オープンな場で佐々木氏が「光の道」に反論する。それに対して孫氏が「オープンな場で話し合いましょう!」という具合に始まった。
今回の対談に関する視聴者のツイートなどを眺めていると、佐々木氏が負けた印象になっているが、ここで大事なのは勝ち負けではなく、「話が進んだ」という事。
これは負ける事を恐れて何もアクションを起さないよりは全然良いことだ。
この様にみんなが切磋琢磨することによって日本が良くなって、元気を取り戻せるようにする。そのためにはドンドン話し合う必要がある。
最後に孫氏が周りのスタッフに「何か聞きたい事があったら聞いてね」と言ったところ、ある質問が飛んできた。突然の出来事であったため、質問者にはマイクが向けられていなかった。よって質問が自分には聞こえてなかったのだが、恐らく「孫さんはなぜ日本のために何故そこまで熱くなれるのですか?」という質問だったと予想される。
この問いに対する孫氏の返答に私は感動した。
孫氏は5秒程沈黙した後にこう述べたのだ:
「私は日本という国が大好きです。自分が生まれた国を愛する事が何故恥ずかしいのだ。自分が好きな国に対して貢献したい。この気持ちが何故恥ずかしいのだ!」
孫氏の目に涙が浮かんだように見えたのは私だけかもしれない。
不覚にも自分も泣きそうになってしまった。しかし同じ気持ちになった視聴者も多くいたに違いない。5時間もこれだけ熱く語る人もいれば、ネット参加とはいえ木曜日の夜中1時に参加する約12,000名の人々もいる。
これだけ日本を想う人々がいるのだ。
自分も海外で人生の半分以上を過ごしたが、やっぱり日本が大好きだし、日本人である事に誇りを持っている。
孫氏や佐々木氏のような人々がドンドン最前線に出てきて、今日みたいにオープンな場で議論をする。
時には涙あり、時には楽しく、そして常に自由に行える。
これ以上素晴らしい物事の決め方はないだろう。
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